ラスカンパナス観測記
2010年3月30日-4月5日

Las Campanas Observatory へ来ました。La Serena 空港から北へ車で2時間半。 標高2400m。このくらいだと標高をほとんど感じない。空気も乾燥を感じない程度。
カーネギー研究所のMagellan Telescope (6.5mが2台)。ClayとBaade。
宿泊施設と望遠鏡は歩いて5分くらいで行き来できます。設備は全てアメリカ仕様になっていて、コンセントなどは日本のまま使えます。
今回観測したのは Clay のほう。アリゾナで作った1枚鏡。副鏡の前に別の副鏡を置いてF5で使うことができます。
Clay には Megacam が来ていました。2週間後くらいから共同利用。 隣の Baade では FIRE という赤外高分散分光装置がエンジニアリング観測中。
すぐ隣の峰にはラスカンパナスの歴史的望遠鏡たち。Swope(1m)とDu Pont(2.5m)。反対側の隣の峰にはかつて 名大のNANTEN望遠鏡があったサイトもあります。
遠くの峰に La Silla Observatory (ESO) の望遠鏡群も見えます。
観測前のひととき。
観測風景。普段は望遠鏡オペレータが一人付く。観測者は二人まで。今回はMMIRSが共同利用が 始まったばかりのため装置開発チームもスタンバイ。McLeod さんたち。
サボテン。
ご飯は毎日けっこうおいしいです。ハレポと違って、毎晩とりあえず食べようという気になります。魚料理が多く、 ソースはほうれんそうたっぷりだったり、ホッキ貝が入って海鮮だしが効いていたり。具の多いスープがちゃんとつきます。
ナイトランチはサンドイッチ。望遠鏡ごとに届けられます。なんで観測者が自分で持っていかないのか? 大内説では「かつて天文学者が尊敬されていた頃の習慣の名残」だそうです。スープも、夕飯の残りのものをポットに入れて 持ってきてくれます。果物、お菓子、ジュース類などは毎日補充されています。 その場で豆を挽いて一人分づつ淹れるコーヒーマシンがあるのが嬉しい。
宿泊棟の隣にある木に5頭のロバが集まって葉を食べていました。観測所の周辺しか緑がないので、このへんで暮らしているのかな。 どこで寝ているの?
Du Pont 望遠鏡。
Swope 望遠鏡。
Swope 望遠鏡。
Swope の望遠鏡制御室はレトロ。右はLA/DECのアナログ表示器。望遠鏡焦点もボタンを押して表示器を 見ながら動かす。
観測後、ラセレナの町に戻ってきました。寒流のせいで曇りがち? 海辺のリゾートエリアは海岸通りにホテル、アパート、シーフードレストランなどが何キロにも渡って並びます。 ガバナタイプのホテルが多い。秋なので人が少なかったです。対岸には住宅地が広がって夜景がきれい。
ラセレナの町の大きなショッピングモールにも行ってみました。衣類、家電、家具、車用品、スーパーマーケットなどが 揃っていましたが、店は大きいけど品揃えは貧弱。どこに行っても大きな野良犬が道をうろうろしていてびびる。
ついでに、Cerro Tololo と Cerro Pachon に行ってみました。ラセレナの町から東へ車で30分ほどで 分岐点。未舗装道路をしばらく行くとゲートが。見学できる曜日でもなくアポイントもなかったので入れませんでした。 いちおう守衛所から観測所に電話してもらって英語の通じる人に交渉してみたのですが。。。
遠くから見るばかり。ゲートからは Pachon の Gemini-S(8m)と SOAR(4.1m)だけが見えました。
仕方ないので、Vicuna の街まで行って、そこから少し小高い山に登ってみました。公共の天文台があって数十センチの 観望用望遠鏡とプラネタリウムがありました。昼間は留守番のおじいちゃんしかいなかったけど。 ここからは Tololo と Pachon が一望できました。遠い。。。
時間が余ったのでさらに東の Pisco Elqui までドライブ。このへんの山間はひたすらブドウ畑。 4月は収穫期のため、たわわに実ったブドウと黄色く紅葉したブドウ畑が何キロも続きました。Pisco Elqui はピスコ(ぶどうの蒸留酒) の産地。
どこへ行っても道の両側にはペッパーベリーの木が生えていて、ピンクの実がたわわになっていてかわいい。
Elqui Domos に泊まろうかと思っていたのだけど 何度問い合わせても返事がなく断念。でもこんな奥地にしなくてよかったかも。ドライブはここで引き返しました。
ラセレナに戻りました。ラセレナ空港の近くには農場がたくさんあって、有名らしいパパイヤジュースの 看板がいっぱいあったので、適当な店に入ってキンキンに冷えたパパイヤジュースを飲みました。砂糖が入っていてかなり甘い。 瓶詰めやジャムをおみやげに買いました。
ラセレナ空港はサンチャゴから1日4-5便が来るだけ。飛行機が着陸して人々が歩いてきたのをデッキで見物してから 搭乗口に行っても十分間に合います。
ランチリ航空。サンチャゴまで1時間です。飲みものと共に出る箱入りのお菓子がおいしかったです。
ラセレナは空から見ると意外と大きな町。ラセレナを飛び立ってすぐに、空からも Tololo と Pachon の望遠鏡群が見えました。 サンチャゴに近づくと南北アメリカ大陸最高峰のアコンカグアも見えました。

ちなみにサンチャゴ空港は先月の大地震で空港のあちこちの天井が落ち、一部はテントが張ってあり、工事中の壁が張り巡らされて 狭くなっていました。スタバは地図とは違うところに仮店舗を出していましたが、他の多くの店は閉まっていました。
MMIRSについて
MOSスリット。ブラック・アノダイズしたアルミ板。厚さ200um。業者に頼んでレーザ加工。 バーコードもプリントしてあるが、現在は使っていない。
マスクは昇温に4時間、冷却に4時間。観測当日の午後2時頃までに装置に入れれば観測開始までに冷える。
マスク交換を見学。デイクルーが一人で作業。
MOS部分のステータスモニタ。マスクターレットがゲートバルブでカメラ部と分離されています。 写真はゲートバルブが閉まって、ターレットは常温付近、カメラは73Kに冷えているところ。
マスク交換開始。まずはMOS部の開ける部分の反対側から乾燥窒素を送り込んで、MOS部が常に ゆるくアウトフローになるようにする。マスク交換の間ずっと。
MOS部分の開閉ドア。
開閉ドアのすぐそばにターレットのコントローラがある。「緊急停止」「隣のマスクへ移動」「回転中か交換中(モード 切り替え)」の3つのボタンのみ。全てその場でマニュアル制御する。
MOS部の内部。一番下の黒いのがターレット。その上のアルミの箱がマスクターレット専用の液体窒素タンク。 それらが薄いアルミのハード・ラジエーションシールドに囲まれている。数センチ上にウィンドウが見える。
ウィンドウのすぐ上には、キャリブレーション関連、シャックハルトマン関連のものが載っている。
マスクホルダ。位置決めピン2個が向き決めピンにもなっている。穴はタイト。マスクを押さえるのはネジ4個。 ターレットへの固定はネジ1個のみ。ターレットの半径方向にネジ止めする。
液体窒素の配管。MOS部用とカメラ部用と2系統ある。
マスク交換が終わったらまずはMOS部に液体窒素をガンガン入れる。液体が噴き出すようになったら 止めて、今度はカメラ部にも入れる。

冷凍機を使わない装置である。大学で開発した装置で、使用期間も短いので、安上がりで良い解だと思う。 マスクが冷えるのが早いのが素晴らしい。
デュワーの底のエレキボックス。(左)と、本体支柱のトーラス部分(左)。
コントロールボックスたち。
観測時のモニタ画面。右はシャックハルトマンのモニタ。

HAWAII-2を32ch読み出しで使用。較正用データなどは1秒積分でどんどん撮る。ノイジーではある。現在は背景が 想定より2倍くらい高いので効率が悪い。原因究明中。
マスク導入時の画面。手順はMOIRCSと同じ。ds9上にホールとアラインメント星の位置を示す枠がでてくるので、 実際に画像に写っているホールと星の位置に動かしてやると、その範囲でホールと星を検出する。2回ほどイテレーションを かければ、残差は0.1ピクセル以下(1pix=0.3")になる。

メカニカルな面では全く問題なく非常に安定して動いている。一晩の間に装置を気にすることが一度もない。 エンジニアリングとして時間を使ったのはシーケンスが確定していないことによるソフト的な試行錯誤のみ。素晴らしい。