デュワー真空・冷却テスト 2
June 15-19, 2002 Tokoku
June 27, 2002 HST update
June 20, 2002 HST
実験
第2回目の真空・冷却実験を行った。
主な改善箇所は、(1)冷却のための熱パスを製作したこと、(2)前回リークが
見つかった直線導入器のとりつけ部分に新しいメタルシールを入れたこと、の2点。
そのほか、カルッセル内にはマスクターレットの軸を組み込んだ。
実験内容は第1回目とほとんど同じ。
図1 改良した熱パス
(写真は、まだベンチがついていない状態)
図2 改良した熱パスの概念図
新しい熱パスは、無酸素銅(OFHC)のシート(幅38.1mm×厚0.15mm×長150mm)を
20枚重ねたもので、伝熱能力は約64Wである(パスの両端が293K、77Kのとき)。
結果
1、真空引きテスト
1回目(2002年6月15-16日) 真空引き開始後1時間半で 7.5×10-2Torr
まで引いたが、その後21時間半たっても、
7.5×10-2Torr までしか到達せず。
続いてヘリウムを使ったリークテストを行った。
リーク量の多かったのは以下の箇所。
A)スロート部真空ポート
B)スロート部冷却ポート
C)CTI冷凍機用エクステンションとカルッセルのあいだ
D)CTI冷凍機用エクステンションと冷凍機のあいだ
E)カルッセルのゼネバギアの導入口
真空引きを停止し、上記のリーク箇所をチェック。
カルッセルの下のエクステンションにOリングが
入っていなかった!
A)以外の全てについて、シールをやり直した。
B)については、後記のメモ1を参照。
ニューマティック式のゲートバルブは、ガス圧を
かけていないときは開閉どちらにもロックされない
で、手で開閉できるほどブラブラしている。それを
忘れていたので、バルブがほとんど閉った状態に
なっていた。真空は引けていたので、コンダクタンス
がとても小さくなっていた程度だと思う。
マスクカセットをゲートに挟みこんでコンダクタンス
がほぼ100%になるようにした。
2回目(2002年6月17日) 真空引き開始後1時間半で2.8×10-2Torr
まで引いたが、その後22時間半たっても2.6×10-2Torr
までしか到達せず。劇的な改善はされていないよう。
ヘリウムリークテストを行う。大きなリークがある
のは主に以下の箇所。
イ)スロート部真空ポート
ロ)スロート部冷却ポート
ハ)CTI冷凍機用エクステンションの上の根元
前回5月の真空実験の際に大きなリークがあった
直線導入器の根元部分は、大きなリークはなく
改善はうまくいったようである。
もう一度、真空引きを中止し、チェック。
イ)は1回目にリークがあったが何も対処しなかった
箇所だが、リークがひどいので、シールをしなおした。
ゴミがかなりたくさんついていた。
このフランジはネジ8本でスロート部についている
が、ネジ締めの最後で、ネジ先がわずかに壁に当たって
いるような感じがするので、短いネジに変えた。
短いネジでも締め長さは十分にある。
3回目(2002年6月18-19日) 再び真空引きを行うが、スロート部の真空ポートは
依然として大きなリークがあるようだ。なぜ...?
今回は非常に時間が限られている中で冷却テストも
行いたいので、真空度が悪いままでもとりあえず冷却
テストにはいった。リークの大きかった箇所は気休め
にビニールテープでふさぎ、ヘリウムリークテスト
一式を取り外してから真空を引き直し、2.6×10-2Torr
まで引いたところで冷却を開始。
今回の温度測定点は3つ。
1)冷凍機第1段にとりつけたコールドプレートの上
2)コールドプレートと光学ベンチをつなぐ銅の熱
パスの光学ベンチ側の根元付近
3)光学ベンチの一番上(コリメータ第1レンズの
あたり
各部の温度推移は以下のようになった。
図3 各部の温度変化
温度変化を見る限り、冷却能力はまったく足りて
いないことがわかる。以下、考察1を参照。
G10サポート板が冷えるような温度までは冷却
できなかったが、今回の実験はここまでで終了。
考察
1、伝熱に関する簡単な考察
-- 光学ベンチがぜんぜん冷えないことの簡単な検証 --
冷却用の熱パスからの伝導による伝熱量と、常温のデュワー壁から入射する輻射
による伝熱量を求め、今回の実験の結果と比較する。
まず、今回のテスト時にデュワーの中にはいっていたものの熱容量。
中に入っていたのは「光学ベンチ」+「サポートプレート」のみ。
熱容量(体積 × 密度 × 比熱)= 8.6×104 [J/K]
温度差 = 293-77 = 216 [K]
よって、これらを77Kまで冷やすのに必要な熱量は、
熱容量 × 温度差 = 1.86 × 107 [J]
熱パスの伝熱量は64Wだから(上述)、伝導だけ考えると、この冷凍機と熱パス
を使ってこの中身を冷やすのにかかる時間は、約3.5日となる。
次に、常温のデュワー壁からの輻射熱量を見積もる。
ものすごく簡略して、デュワー内壁面積を求め、光学ベンチとサポートプレート
もほぼ同じ面積をもち、お互いに向き合っている平面と仮定する(形状関数とか
は無視する)。単位面積あたりの伝熱量は以下の式で近似される。
デュワー内壁の表面積は約8m2で、デュワー壁の温度を T1=293K、サポート
プレートの温度を T2=77K として輻射伝熱量を求めると、約177Wにもなる。
実際には光学ベンチは冷えていないので輻射伝熱量はもっと小さい。例えば、
T2=100Kとすると175W、T2=250Kとすると83Wとなる。
いずれにしても、かなりの熱流入がある。
今、デュワー内壁と光学ベンチは、アルミの加工面なので、放射率ε1、ε2
はどちらも0.1(0.1-0.3?)を想定している※。
放射率がもう少し大きいと、熱流入量はさらに大きくなる。
輻射による熱移動には、放射率εもかなり効いている。たとえばεを変えて
みると、以下のように伝熱量が大きく変わることがわかる。
(この計算ではT1とT2の2面だけだが、これに温度Tnのシールドを挟んでいく
と、熱量はシールドの枚数nに反比例して減少する。)
ε 全体の伝熱量
-----------------------------------------
0.3 5.7 590W
0.2 9.0 374W
0.05 39.0 87W
(T1=293K、T2=77Kのとき)
※アルミニウムの輻射率 |
研磨したもの(純度〜98%) |
0.04-0.06 |
キッチンホイル |
0.09 |
強く酸化させたもの(アルマイト処理) |
0.2-0.33 |
G10ストラップからの伝導による熱流出量は、ストラップ10本で約1.5W。
全体として無視できる程度である(と思っている)。
(これは後に実験的に確認できるはず。)
G10の熱電導率は0.32[W/m/K]@60K、0.8@300K(GNIRSデータ)、または
0.56@77K、0.78@293K(NISTデータ)。
住重冷凍機の冷却能力は77Kで約70W(第1段)である。
これより、今回の冷却実験で光学ベンチがうまく冷えなかったのは、伝熱
ストラップによる伝導冷却に比べて、常温のデュワー壁面からの熱輻射が
大きすぎたことが原因と思われる。
もあくすは熱容量も大きいため、やはりラジエーションシールド(スーパー
インシュレーション)が必須だと言える。
まとめ
今回の実験は、本来5月中旬に終了する予定だったものである。検出器デュワーを
早く東北大に返す必要があるため、かなり急いでしまった。
東北大での配線等のタスクがおわったらまたすぐに戻してもらって、夏に光学系を
マ組み込む前にG10の冷却実験(強度が十分か、断熱ができているか)をを行い
たい。そのときは、レンズマウントは組みこんでもよいと思うが、レンズなどの素
子は入れないで実験する予定。また、実験用のウィンドウも準備して、光学ベンチ
のたわみ等の測定実験も行いたい。
次回の真空・冷却実験の際には、ラジエーションシールドとより改善した熱パス
を製作し、ベンチをきちんと冷却することにも重点を置く。
一方で、デュワー全体ではまだ必要な真空度が達成できていないので(リーク?ア
ウトガス?)、光学ベンチはつけない状態で、検出器デュワーの部分に蓋をして
(焦点面デュワーの底面にしていた蓋が合うはず...)、真空実験を行い、リーク
箇所があれば改善を行う。
メモ
1、スロート部冷却ポートは、当初は冷凍機をとりつける目的で作ったポート
だが、冷凍機はカルッセル下にとりつけることになったので、現在はただ
めくら蓋をしてあるだけで使われていない(スロート側にあるOリング溝
は、冷凍機取りつけ用に作ったもの)。
ネジ穴の内側にOリングをつけるスペースがないので、このままだと構造
的に問題があるので、改善が必要。具体的には、短いエクステンションを
つけたうえで、真空ゲージかリーク用バルブをつけるポートにすると良い
と思う。
図4 スロート部の冷却用ポート
2、今回の実験期間中、冷凍機の水冷式コンプレッサのチラーの調子が悪く、
2時間おきに温度をチェックしていたのだが、1回だけ冷却水の温度が異常
に上昇し(約40度)、冷凍機が停止、真空度が急激に上昇することがあった。
実験後、チラーは修理にだされた(はず)。