スポークホイールの熱計算と強度計算
22 Aug, 2001 Tokoku
□ スポークホイール とは
約77Kに冷却された30枚のマスクを支えるカルッセル(メリーゴーラウンド)は、
ベアリングを介して常温のデュワーの中で回転する。
スポークホイールは、ベアリングの外側につけて常温と低温をつなぐ熱経路
となる。
□ 熱計算
まずスポークホイールへの熱流入量を見積もる。
スポークホイールは、常温のデュワーと向き合って輻射を受けるが、
見積りでは、輻射による熱流入は0.4W以下である。
これに対して、熱伝導については、一端が77Kのアルミポールに固定され、
他端は常温に近い(293K)ベアリングに固定されすため、小さな部品で
大きな温度差をつなぐことになり、熱伝導の効果は非常に大きいと予想される。
ベアリングは接触部が非常に狭いので熱抵抗は大きくなるが、ベアリングは
なるべく冷えない状態で使用したいので、スポークホイールの熱抵抗を大きく
する方向で考える。
熱伝導の式は、熱が通過する部分(スポークと呼ぶ)の断面積をA、長さをL、
熱伝導率をκ、両端の温度差をΔTとして以下の式を用いる。
はじめの設計では、熱の通過するスポーク部のサイズは
長さ 18.0mm
断面の幅 3.0mm
断面の高さ 4.5mm
また、材質はSUS304を想定して熱伝導率κ=16.3[W/Km]、ΔT=293-77=216[K]
としてこれらの値を上の式に入れると、スポークを通過する熱量は、上下の
スポークホイール合わせて約47.5[W]となる。
カルッセル冷却用のCTI冷凍機の冷却能力は70Kで約60Wで、熱伝導によって
損失する熱量を冷凍機能力の10分の1(約6W)程度に抑えるためには、上で
求めた熱流入量をさらに1/7〜10にしたい。
このためには単純には
1)スポークの断面積を1/10
2)スポークの長さを1/10
3)スポーク材の熱伝導率を1/10
にする、などが思いつく。
どれも極端なので、ひとまずスポークの断面積を1/3、長さを1/3にしてみる。
このときの熱伝導による熱流入量は、約5.3Wになる。
これならよさそうだ!ということで、このサイズのスポークの強度が十分
強いかどうかを次にチェックする。
※ 熱伝導率がステンレスの1/10以下になる材質は、一般的なもので
ポリカーボネイト、PTFE、Vespelなどいくつかあるが、強度等を
考慮して、ここでは優先しない。
□ 強度計算
・計算モデルはこんな感じ(スポークホイールとアルミポールがくっついたところ)。
・材質は、スポークホイールがSUS304、真ん中の筒状のアルミポールがAl7075。
使った物性値は全て常温のもので、以下の表に示す通り。
・スポークホイールの上部と下部は、アルミポールとベアリングに固定されている。
これによってアルミポールはデュワー中に支えられている。
・アルミポールには、内部の部品やマスクに相当する荷重をかけてある。
マスクの重さは1枚が0.25kgで、これが30枚。
カルッセルの上下にあるアルミ板は1枚2.5kgで、これが2枚。
使用した物理定数
| 密度 [kg/m3] | ヤング率 [MPa] | ポアソン比 | 熱伝導率 [W/K/m] | 降伏強さ [MPa] |
SUS304 | 8.03×103 | 193 | 0.29 | 16.2 | 205 |
Al7075 | 2.79×103 | 71.7 | ? | 142-176 | 505 |
結果は、アルミポールの重力によるたわみは1um以下で、それに引っ張られる
スポークホイールの変位量はさらに小さく、スポーク部にかかる応力も約0.6MPaと、
SUSの降伏応力に対して十分小さかった。結果の絵はこちら[PDF]。
[おまけ計算1]
装置が真横をむいた方向でも計算してみたが、こちらのほうが構造的に重力に
強く、変位量は1um以下、応力は0.05MPa以下で問題なかった。
[おまけ計算2]
二つあるスポークホイールのうち、上のスポークホイールを固定しない、
つまり30枚のマスクの載ったカルッセルが下のスポークホイールだけに
ささえられていると仮定した計算でも、スポークのたわみは約2umで
応力は1.3MPa程度だった。
□ 結果
ステンレスベアリングとステンレススポークホイールのみで常温デュワーと
低温部が接続される構造について、内部からの熱流出をできるだけ抑える
(冷凍機パワーの1/10まで抑える)スポークホイールの構造を考え、その
強度を確認した。
しかし、
1、これらはあくまでも常温での値である。
2、両端が77Kと293Kという仮定での熱計算は実は正しくなくて、
内部の77Kは積極的にその温度を維持するが、外部は293Kを維持する
熱浴はない。輻射効果もさほど大きくないため、冷える一方である。
デュワーの外が凍りつくような場合はヒーターなどを用いて積極的に
室温を維持する方法も考える。
冷却してどうなるか、ベアリングの熱抵抗もいれるとどうなるかは
今後検討していく。実験的にも確認していく。
□ Kerryの設計方針
まず冷却によってアルミポールが収縮すると、それにひきずられてスポーク
ホイールは中央寄りに変位する。このままだとカルッセルが潤滑に回転しなく
なることもありうる。
これを避ける方法として、あらかじめデュワーを締める際に、ベアリング部を
押しこんでたわみをつくっておき(preload)、冷却してアルミポールが収縮
することによってそのたわみが吸収されて、ベアリング-スポーク部が水平に
なるようにする(下図)。
具体的には製作とFEMを同時にすすめていく。