マスク交換機構冷却実験
2004年5月27日 東谷
実験
MOSのマスク交換機構の初めての冷却実験を行った。安全のために、光学素子
や検出器は入れずに、メカニカル部品のみ(ターレット、焦点移動機構、MOS)
を組み込んだ光学ベンチをデュワーに入れて全体冷却実験と同様にテストをした。
デュワー内が低温になってから、まずはCIAXに載せた状態で駆動テストを行い、
それがうまくいってから、次にシミュレータに載せていろいろな角度に振りながら
テストを行った。テストの内容は、
(A)マスクキャッチャーが一番ひっこんだ状態(待機位置)からカルッセル
にマスクを取りに行って、焦点面にマスクを置く。
→撮像から分光モードへの切り替え
(B)焦点面にあるマスクを交換。
→分光観測中のマスク交換
(C)焦点面にあるマスクをカルッセルにしまって、待機位置まで戻る。
→分光モードから撮像モードへの切り替え
の3パターンを行った。事前のテスト(@常温)では、各動作の所用時間は、
(A)約3分半、(B)約4分半+カルッセルの回る時間、(C)約3分15秒だった。
焦点面付近の様子。
シミュレータに載せた後は、ウィンドウ上に取りつけたCCDモニタと、
実際の音を聞きながら動いているかどうかを確かめた。
低温テスト中、ウィンドウ外から中を覗いた様子。マスクが移動中。
今回、カルッセルの回転については低温での実験が完了していないので、固定したまま
実験をした。他のスロットにはFOCASのカーボンシートマスクをMOIRCSの
マスクフレームに固定したものを入れて、マスクの温度変化を見た。
結果
1、CIAX上でロボハンドの軸が約118K、カルッセルが約120K
(カルッセル温度は直接測っていないが、過去の実験データからの予想値)
の状態でテストを行ったが、ロボハンドが開閉しなかった。
4つのロボハンドのうち1つだけは、何回か開閉を試みた後で動くよう
になったが、他の3つはびくともしなかった。
2、ロボハンドが動かないので、直線導入器によるマスクの出し入れ実験は
「カルッセルからマスクを出して、焦点面まで持ってきて、再びカルッセル
に戻す」という動作だけをテストし、これは問題なくできた。
直線導入器は常温だが、カルッセル側が低温なので、マスクを出して、
再度しまう時にちゃんとスロットに入るかどうかがポイントだった。
3、次にシミュレータに載せて、装置を振りながら2と同じ実験を行った。
エレベーション(EL)とローテーション(R)を以下のようにしてテストした。
EL R
----------
60 +45
60 -45
60 -135
60 -200
30 -200
30 -135
30 -45
30 +45
5 +45 (カルッセルがほぼ真下)
5 -45
EL=5°でのR=-135と-200は無理だったのでやめた。実際には望遠鏡は
EL=30°以上には傾けないので問題ないと思う。CCDカメラによる
モニタで、マスクが焦点面に入ってくることと、マスクキャッチャー
がカルッセルからマスクを抜く時の音で、動作に問題がないことを見て、
全ての位置で、問題なく動作した。
4、再びCIAXに戻してマスクの出し入れをしたが、特に異常は
なかったので、3のテスト中は特に問題なかったと思う。
5、次にエラーモードのテストも行った。
・焦点面周辺でロボハンドが開いた状態でマスクキャッチャーを開いてしまう
・スロート部でマスクキャッチャーを開いてしまう
の2点については、2と同じ全てのエレベーションとローテーションで、マスク
キャッチャーをすぐに閉じる場合にはリカバリーできることを確認した。
ただ、マスクをもったまま、マスクキャッチャーを待機位置まで持ってきて
マスクを離したら、なんらかの原因でマスクがキャッチャーにスタックして、
どうにもリカバリーできなった。デュワー昇温後に原因と対策を考える。
6、カルッセルの回転は今回の必須項目ではないが、実験の最後に±2スロット分だけ
回転させてみたところ、問題なく回転した(ウィンドウから目視チェックしただけ)。
この時カルッセルの温度はおよそ120K(推定値)。
7、MOIRCSと同じマスクフレームで冷やしてみたFOCASマスクは(磁石で
押さえただけ)、24時間で約247K程度まで冷えた後は3日以上冷やし続けても
それ以上温度は下がらなかった。
→これでもdistortionテストに使えるかどうか?
考察・メモ
1)上の3のテスト中、直線導入器の2つのリミットセンサのうち使っていなかった方
(ふらふらぶら下がっていた)が何かの拍子でON状態になったまま壊れた?ようで、
モータのドライブがOFFになり、動かなくなった。リミットセンサの読み出し口を
短絡させて復帰させた。その後、直線導入器の位置をイニシャライズしたが、それ
だけではモータの位置情報がリセットできず、その直後にマスクキャッチャーを
カルッセルに運ぶ際にマスクキャッチャーが正しい停止位置を通り過ぎてカルッセル
をがりがりと押したので、緊急停止させた。もう一度イニシャライズして、さらに
モータをリセットしたら今度は正しい位置で動作するようになった。しかし、
カルッセルをがりがり押してしまったので、いったんエレベーションを90°に戻して
デュワー内を目視チェックしたら、マスクキャッチャーが垂直のときにまっすぐに
なっていなかった。調べると、マスク回転用の固定イモネジを止めるナットがかなり
緩んでいた。マスク回転方向の垂直・水平を修正したが、垂直方向はかなりずれていた。
ナットが緩んだのは直線導入器の振動のせいかもしれない。ナットを2重にする
などの工夫が必要。マスクキャッチャー自体の水平方向もずれていたが、とりあえず
マスクの出し入れができるようになったので、そのまま実験を続行した。
※直線導入器によるマスクキャッチャーの姿勢は、キャッチャー自身の水平・
垂直方向(スロートの真ん中を通っているかどうか)、90°回転した時に
デュワーに対してまっすぐになる方向(カルッセルと焦点面に対して
まっすぐ入っていくかどうか)の4つのパラメータがある。90°の回転角は
固定されている。
2)ロボハンドが低温で動かなかったことについて、2年前の液体窒素実験の結果を
すっかり忘れていました。2年も放置していて申し訳なく、恥ずかしい限りですが、
とりあえず代替案を模索します。
3)上の5のようなこともあり、多少のエラーに対応できるようにしつつ、マスク保持を
確実にするため、ロボハンドの爪の部分(マスクを保持する磁石付きの部分)や、
マスクフレーム側のテーパーのサイズなどはもう少し改善する予定。