熱収支の再見積もり !暫定版!
とうこく
Feb. 10, 2003 update
見積もり
2002年12月の冷却実験では、200時間以上冷却しても、光学ベンチは195Kまでしか
冷えなかった。この時、スーパーインシュレーションも230Kまでしか冷えておらず、
光学ベンチが冷えなかった一因として、スーパーインシュレーションの効果が小さく、
輻射による熱流入が大きすぎたことが考えられる。それを簡単な見積もりで確認し、
改善策を考える。
デュワー内の伝熱経路はおおよそ図1のようになっている。
▲図1 熱流入出の概略図
最も簡単なモデルとして、図1のように、デュワーとスーパーインシュレーションと
光学ベンチが平行平面としたときの、スーパーインシュレーションの関数としての
熱流入量は図2のようになる。デュワー内壁面積は約6m2とし、G10ストラップや
ケーブル類の伝導が約5W、スーパーインシュレーションどうしの接触による伝導が
1層増えるごとに0.5W増えるとした。(伝導による熱流入量の大きさは不定性が大きく、
もっと大きいかもしれないし、スーパーインシュレーションの作り方で大きく変わる。)
▲図2 平行平面を仮定したときの熱流入量
スーパーインシュレーションは、ある程度以上に層数を増やすと、層どうしの面圧が増加
して熱伝導が増加する。熱流入量は、層数の関数としてある枚数で最小値をとる。
デュワー内壁(d)とn層のスーパーインシュレーション(s)の間の熱流量dsは、
σ(ボルツマン定数)=5.667×10-8 [W/m2/K4]、Aは面積、εは放射率、Tは温度を示す。
デュワーとスーパーインシュレーション(1層)の表面積は平行平面(面積が同じ)と
している。実際には光学ベンチ側の表面積のほうが大きい。
スーパーインシュレーションの一番内側の層と光学ベンチ(b)の間の熱流量Qsbは、
・デュワー内壁 : 温度Td=293K, 面積Ad=6.1m2, 放射率εd=0.2
・スーパーインシュレーション : 温度Ts=200K, 面積As=4m2, 放射率εs=0.08
・光学ベンチ : 温度Tb= 77K, 面積Ab=20m2, 放射率εb=0.2
スーパーインシュレーションの伝熱と断熱の兼ね合いは、製作・装着方法から、自重との
関連もあり、10層を超えると形状の保持が大変になりそう、といのが前回の実験での実感。
そこで、10層にするとした場合のインシュレーションの温度と全体の熱流入量を見積もった
のが図3。
▲図3 スーパーインシュレーションの温度と熱流入量の見積もり
前回の実験では、スーパーインシュレーションは10層あり240Kまで冷えていたので、
約70Wの熱が入ってきていたことになる。この全体の熱流入量を減らすには、スーパー
インシュレーションの一番内側の層を全体的に150Kくらいまで冷やせばベンチへの
熱流入を抑えるのに効果があることがわかる。
まとめ・メモ
1)参考:住重冷凍機408Sのロードマップ (60Hz)
第2段を使わないときの第1段のパワーは、75Kで約80W。
2)アルミ面の輻射率がいまいち不明。一般的にアルミ面は、よく磨いた純度の高いもので
0.04-0.06、市販のアルミ箔で0.09、強くアノダイズしたもので0.20-0.33。
3)スーパーインシュレーションの断熱層(スペーサ)に使われているメッシュとの形態係数
(お互いを見る割合)がどれくらい効いてくるのか、よくわからない。
また実験では光学ベンチと向かい合うのはラジエーションシールドのメッシュ面だったが、
効率が悪そうなので両端面はどちらもピカピカにするべきだろう。
使用している厚さ9umの両面アルミ蒸着フィルムの場合、放射率εはおよそ、293Kで0.028、
77Kで0.011になる(伝熱工学資料より)。
4)改善策として、スーパーインシュレーション・ジャケットを光学ベンチに着せて、
一番内側の層をきちんと冷却することにする。ただしその場合、層同士の接触による
熱伝導によってスーパーインシュレーションの熱流束が大きくならないようにする。
5)光学ベンチ+サポートプレート+バルクヘッド+マウント+スーパーインシュレーションは、
前回の実験では約160kgが熱容量になっていて、これを単純に70Wで冷やし続けたとすると
113時間(約4.7日)かかる計算になる(アルミの熱容量を800W/kg/Kとし、全て77Kまで冷やす
とした場合)。温度差(熱勾配)が小さくなってくると、時間はもっとかかることになる。
6)液体窒素冷却の冷却パワーは、毎時30リットルのLN2流量で約1300Wになる(GNIRSより)。
7)熱パスについて画期的な改善策はまだないが、できるだけ溶接箇所を増やすなど
小さな改善はいくつかできそうだ。
8)スーパーインシュレーションは、鐘紡化学工業製「両面アルミ蒸着ポリエステルフィルム
(厚み 9um)」と「ポリエステルネット(厚み 193um)」の2種類のシートを交互に
重ね合わせ、普通の糸で軽く縫い合わせている。光学ベンチに着せるタイプにする場合、
銅テープやアクリルねじを数ヵ所に使って形状・重さを支持するような方法も考えられる。