冷却実験レポート
2003年5月21-26日 鈴木、小俣、西村、東谷 (レポート:東谷)
実験
これまで光学ベンチの冷却はうまくいっておらず、光学ベンチを冷やして維持することが
最大の課題になっている。前回の実験と比べた主な改善点は、
・初めて液体窒素予冷を使って冷却する
・MLI(スーパーインシュレーション)をしっかり作って光学ベンチに着せる
の二つで、実験の主な目的は、
1、予冷システムがリークしたり壊れたりしないか
2、予冷システムが機能するか(ちゃんと冷えるか)
3、MLIが機能するか(冷凍機だけモードになったときに低温を維持できるか)
4、冷えた場合は、冷えた光学系の実験をする(途中の温度でも測定を行う)
5、冷えた場合は、真空モータの駆動実験をする(ターレット用のを1台だけ取りつけてある)
である。それ以外の改善点は、熱パスを改良したこと。銅シートの束の両端を銀ろうでガチガチに
固めて固定した(組み上げレポート参照)。またターレットボックスを組み込んでの冷却は初めて。
ターレットの組み込み(123)、予冷管の製作、MLIの製作とデュワー組み上げについては、
それぞれのレポートを参照。
液体窒素予冷しているところ。液体窒素タンクからデュワーまでは真空層のついたホースを使い、
排気出口には普通のゴムホースを使う。
実験風景。今回はMOIRCSが完全に自立した状態で、CIAXに載せて実験を行った。
結果・考察
1、予冷だけで、光学ベンチの前端が81.6K、後ろ端が80.5Kまで冷えた。
2、液体窒素を流入すると、予冷管が固定されているバルクヘッドがまず急激に冷え、
そのあと全体がだんだん冷えてくる傾向が見える。全体の温度降下率がゆっくりに
なってきたら液体窒素の流量をわずかに増やしてやる、という繰り返しを行った。
3、光学素子の冷却は他装置をまねて、「2日で77Kまで冷やす(-200K/48hr)」とし、
光学ベンチが1秒に1-3mKの割合で冷えるように温度モニターを見ながら流量を調整した。
4、予冷には全部で約500L(150Lタンク3本半)の液体窒素を使った。途中、液体窒素が
切れた時間が16時間ほどあり、そのロスを考慮すると、もう少し少なくて済んだかも
しれない。150Lタンク1本あたり10-15時間程度で消費した。
5、内部が冷え始めると、出口には低温のガスがでてくるようになり、消費も早くなった。
6、液体窒素が切れるとバルクヘッドはすぐに温度が上昇する。一方で、ターレットや
ターゲットなど冷却点から遠いところは反応が遅く、ゆっくりと冷え、予冷が終わって
からしばらくは冷え続けていた。
7、今回は、予冷だけで冷やした場合の温度降下傾向を見てから冷凍機をオンにした。
8、熱パスの前後には温度差ができることがわかった。内部温度が150K以上の時は約35K、
内部温度が100K以下のときで約20K、ベンチが最も冷えた時で12Kの差があった。この熱パス
に大きな熱抵抗があることがわかる。冷凍機パワーのロスになる。
→この温度差を減らすことが次の課題
9、バルクヘッドと光学ベンチには10K前後の温度差があった。
10、光学ベンチとターゲットには10K程度の差があった。
11、光学ベンチとターレット内部にも10-20K程度の差があった。
12、予冷を終了した後、冷凍機だけの冷却にはほとんど時間がとれなかった。しかし10時間
程度のあいだに、光学ベンチは4-7K程度の温度上昇が見られた。この温度がどのへんで
平衡になるかを調べる必要がある。同時に、光学素子の温度公差がどの程度なのかを
見積もる必要もある(77Kじゃないとダメなのか、90Kでも可能なのか)。
輻射に負けている可能性も大きいので、輻射流入はできる限り小さくしなければいけない。
モータ類や検出器システムを入れた際に、伝導だけでかなりの熱流入量になる場合には
冷凍機の数を増やすことをマジメに考えないといけないかもしれない。
13、実験後、早く常温に戻すためにデュワー内に乾燥窒素を封入して対流による昇温を
狙ったが、当然デュワー外壁は冷やされて水滴で水浸しになった。拭いたりファンを
飛ばしたりしたが、あまりよいことではない。
内部に光学ベンチ昇温用ヒータをつける必要がありそう。フィルムヒータ?抵抗ヒータ?
14、前回の冷却実験では、冷凍機の第一段ヘッドは85Kまでしか冷えなかったが、今回は53K
まで冷えた。検出器デュワーとオクタゴンをつなぐネジが熱パスに当たっていたせいか、
もしくは熱負荷が大き過ぎたせいと考えられる。
15、予冷が終了した直後の、ターレットが約85Kの時に、ターレットにつけた真空モータの
駆動実験を行った。ターレットより後ろにあるカメラマウントにつけたターゲットを照らし、
アラインメントテレスコープから覗いて、前を横切る影があるかどうかで確認した。
モータの「カチカチ」という音は聞こえたが、ターレットは回っていないようだった。
実験後、常温に戻った際にもう一度駆動させたら、ちゃんと回った。
16、液体窒素予冷システムは、特にリークしたり壊れたりはしなかった。
17、光学系の実験に関しては鈴木くんからレポート。
全体が一番冷えた頃の温度モニタ
メモ
次回までの対策
1、熱パス部分はまだ改良する必要があるが、現在のデュワーだと限界であり、新検出器デュワー
でもって改良するほうが得策と思われる。早めに設計をして、新デュワー到着と同時に細かい
加工ができるように準備する。
2、MLIは、G10の根元あたりの密封性を重点にして、デザイン変更する必要がある。
材料の発注を急ぐ。今回やったように、内部は両面アルミ蒸着フィルム+ポリエステル
ネットの層にして、外側を補強材つきフィルムにすると、効果と丈夫さが期待できる。
3、真空ポンプに電磁バルブを設定する。正式な真空配管を決める。
4、デュワーを大気圧に戻す際のリークバルブ(Up-To-Air Valve)をつける。
5、予冷管内の急激な圧力上昇を避けるためにバーストディスク?をつける? →要調査
(予冷管内を大気圧に戻すタイミングは、デュワー内のものが常温・大気圧に戻ってから。)
6、液体流入や気体流入の際に使う管について、規格が違うものの変換アダプタを用意する。
7、液体窒素流量計(LN2 Level Controller)をつける? →要調査
8、真空モータ駆動についての対策を早めに行う。解体時の状況チェックと、場合によっては
部分的にCIAOテストクライオスタットで冷却実験をする。
デュポン社のベスペルを使ったベアリング等が使えるかどうかも調査する。 →要調査
9、レンズを組み込んだ時は乾燥窒素を使った昇温はできないので、光学ベンチを暖める
ヒータに関しては早めに見積もりをたてて対処する。
いずれは解決しないといけないこと
1、MOS部のCTI冷凍機が液体窒素流入口と接触しそう。液体窒素の出入り口に
エルボーを使って経路を曲げるだけで済むか。実際に組み上げて確認する。また、
これをいずれは住重冷凍機に変えるつもりはあるか(冷凍機システムの統一)?
2、カルッセルデュワー底面のモータが、デルタウィングのネジ頭と干渉しているので
どこかを少し削る必要がある。
3、オクタゴンのG10アクセスポートの横に、さらにアクセスポートをあける。G10
取りつけの際の苦労を減らす。
4、液体窒素流入口の横にもアクセスポートをつける。
5、予冷管システムの改善をする必要があるか?(やるとしてもプライオリティは低い。)