ロボハンドの冷却問題
2004年6月18日 とうこく
解体
5月のメカニカルテストの際、ロボハンドが低温で開閉しなかった。
これは、実は2年前にも報告されていた。
ロボハンドは以下のような構造になっている(Robohand inc.より。詳しい説明書はこちら → )
実際には、キャップの部分に強いバネがついていて(これはケリーが取りつけたもので、
元の商品にはない)ロボハンド用マニピュレータがそれを押すことでピストンを押し、
ダブルラックギアが上下運動するとピニオンギアが回転運動し、ぎざぎざのついたラックが
横にスライドして、ロボハンドの爪(ジョーに取りつけた、マスクを押えるためのパッド)
が開閉する仕組みになっている。
これを、順に解体しながら液体窒素に浸けて、どこでスタックするのかを調べることにした。
ミラーマウントに固定されているロボハンド。
上からと横から見たところ。解体マニュアルがあって、全部解体できるようになっている。
マニュアルには、どこにどういう潤滑油が使われているかも書いてある。また、各パーツは
すべて個々に購入できるようになっている。
実験と結果
(1)まずは、バネだけを取った状態で(プレロードがなくなるのでスイスイ動く)
液体窒素に入れてみたが、全然動かない。
(2)次に、横にスライドするギア(上の図では adjustable way と fixed way)
とローラベアリングとそのケージ、ジョーを外した。つまりピニオンギアとダブル
ラックだけが残る状態にして液体窒素に入れてみたが、やはり全然動かない。
液体窒素に浸けて動くかどうか実験。
以前に使った、液体窒素実験用のジグは紛失してしまった。
(3)次に、ピニオンギアを外してみた。このギアはダウエルピンという位置決めの
ピンとニードルベアリングのはめ合いで精度よく固定されているので、ブライアン
に頼んで、ジグを使ってまっすぐに抜いてもらった(下手にやると使えなくなる)。
するとそこには大量のグリースがたっぷり塗ってあった。おそらくこれが凍って
動かなくなっていたのだろう。
(4)全部解体して、徹底的に洗浄した。
シンプルグリーン(洗剤)に入れて超音波洗浄。ニードルベアリングだけは解体できない
ので、超音波洗浄の後、エタノールを入れながら隙間からエアを吹き飛ばして、グリースを
押し出した。何をしてもグリースが出てこなくなるまで、これを3〜4回繰り返した。
スライド用ラックには、円柱のアルミ柱がベアリングとして入っていて、これにも
ベアリングがついている。直径1ミリ、長さ2ミリほどの円柱をピンセットを使って
ひとつひとつエタノールで拭いた。元に戻すのが大変!(ひとつのベアリングに12個
の円柱が入っていて、それが1つのロボハンドにつき4個あって、ベアリングは全部で4個...。)
(5)再び組み上げながら(2)、(1)の順にパーツを加えながら液体窒素につけて
動かしてみた。問題なく動いて、全部組み上がった。
(6)6月の全体冷却実験で、光学ベンチに組み込んだ。ロボハンドの軸が約110K
に冷えたところで開閉させたら、問題なく動いた。
メモ
1)5月の実験で、4個のロボハンドのうち1個だけがかろうじて動いたが、
もしかすると、以前にケリーが脱脂したと言っていたのはその1個かも
しれない。その1個には一部損傷もあった。しかし内部は脱脂できて
いなかったので、解体はしていないのかもしれない。
2)1)で損傷があったのはローラーベアリングをとりつけるケージで、ロボハンド
の中ではそれだけが唯一プラスチックでできており、それが熱か何かで変質して
ぼろぼろになっており、冷却実験を繰り返していたら折れてしまった。この
プラスチックが繰り返しの冷却に耐えるかどうかわからないが、他の3つは特に
問題なさそう。
3)脱脂して使うため、ベアリング等は通常の寿命よりは短くなると思われる。
念のため、劣化が予想される部品はスペアを注文した。
ピニオンギア、ローラーベアリング(ケージ)、ダウエルピン、ニードルベアリング、adjustable way